先負高入学…
１９９Ｘ・０４・０９（日）
１４：００
「ふ〜っ、やっと着いた。此処が先負町か。これから数年間、よろしくな。」
俺は拓郎。ちょっとした事情があって、俺だけ此処に越してきた。まぁ、良く云
う「一人暮らし」って奴だ。
この事は去年の夏から判ってた事なんで、高校も此処に近い所を選んでおいた。
あの頃は酷かった…受験に俺と両親の部屋捜し…ゆっくり此の辺りの女の子を見
てる暇さえありゃしない。
それこそ昨日まで忙しかったくらいだ。慌ただしく引っ越しの準備をして、明日
には入学式だ。
此処は初めての土地という事もあるし、新たな出会いもあるかも知れない。１日
だけになって仕舞ったが、此処いらを充分散策しようと思っていた。
さぁて、先ずは学校に行ってみよう。同じ入学予定の娘が見学してるかも知れん。
校内の女の子と仲良くなっておけば、これからの学生生活が明るくなるってもんだ。
俺が通う事になった高校、先負高校は結構学力が高いらしく、目立った不良など
も居ないようだ（まぁ、居たって俺に面倒をかけなければ、どうもしないが）。
俺のやる事を邪魔するような連中も少ないだろう。ならば、楽しまねば損だ。
等と考えてる内に校門まで着いて仕舞った。
ふ〜ん。結構綺麗だ。河原脇に在って、環境も良さそうだし。後は、此処に通う
女の子だな。
辺りを見回してみると、俺と同じように私服で来ている女の子に気が付いた。
いきなり極上に当たって仕舞ったようだ。長い髪に黄色いリボンがアクセントで
効いている。顔立ちも整って、完全に俺好みだ。
こりゃ、声をかけなきゃバチが当たるってな勢いで、話しかけてみた。
「やぁ、此処の新入生？」
「え…あ、そうですけど、貴方は？」
思った通り、綺麗な声だ。これは、此処でお友達にならねば、この先十年は後悔
しそうだ。
「いや、俺も此処の新入生なんでね、学校の下見に来てたんだ。俺、拓郎って云う
んだ、よろしく」
「あ、私、舞です。桜木舞。」
…ん？名乗るのに妙に緊張が走ったなぁ…気のせいかな？
「ふ〜ん、舞ちゃんって云うんだ。一緒に校内を見て回らない？」
「え？…私と？」
…何か予期せぬ状況が起きたみたいにキョトンとしてる。それがまた可愛いなぁ。
「そりゃそうさ、俺は舞ちゃんと話してるんだぜ？」
「あ…そうね…うん。じゃぁ、一緒に見学してくれる？」
「俺が誘ったんだから、当然さ。さぁ、入ろう」
あれ？今度は随分、嬉しそうだなぁ…まぁ良いや。笑顔も見れた事だし。（やっ
ぱり、と云うか当然、と云うか彼女の笑顔は極上だ）
校庭では、陸上部が練習していた。
此処の陸上部は、男女合同で練習してるみたいだ。広い校庭で、競争・高飛び・
幅跳びなど、各自自分の練習メニューをこなしている。
「あ、プールがあるわ。行ってみましょう？」
彼女からのお誘いだ。これには当然、賛成だ。（しかし、今が夏なら練習してる
お姉様方が居るだろうに…）
校庭も広いがプールもなかなか…これなら、男女合同で水泳の授業も出来るだろ
う…こりゃ、嬉しいや。
「拓郎君？…どうしたの？ポーッとして」
心配そうに舞ちゃんが覗き込む。俺はまだ妄想から抜けきらなかったおかげで…
「いやぁ、舞ちゃんと同じクラスになれたら、良いなぁ…って」
「何で？」
「夏には此処で…」
不意に我に返った。気が付けば、隣にいる舞ちゃんは完全に真っ赤だ。
「あ、御免、そういう意味ぢゃ…」
慌てた俺は弁解にならない弁解をのたくっていた。
「恥ずかしい…でも、嬉しいな…」
俺宛に云ったのだろうか？聞こえるかどうかの小さい声でポツッと云った言葉を
聞き逃さなかった。良い雰囲気だ。このまま勢いに乗せて仕舞おう。
「次は、校舎に入ってみようよ」
前触れもなく舞ちゃんの手を握り、校舎へと向かって仕舞った。
彼女は振り払うでもなく、そのまま付いて来てくれた。
勢い込んで校舎に入ってみたが、外見の印象と同じく綺麗な校舎だ。未だ彼女と
は手を繋いだままだが、嫌がってる様子はない。そのまま話を進めて仕舞おう。
「ふ〜ん、良い校舎だね。適当に教室を回ってみて、屋上でひと休みしよ…あれ？
どうしたの？舞ちゃん。」
「え？…あ、はい。行きましょう。」
…何か、心此処に在らずって感じだな…もしかして、この手のせいかな？
等と考えながら、校舎内を歩き回っていると、背後から気障ったらしい男の声
がした。
「舞、こんな所でなにしてるんだ？もう帰るぞ。」
「健二君…」
舞ちゃんの知り合いか…しかも、舞ちゃんを呼び捨てに出来る奴だと！？
「ん？誰だお前は。舞から手を話せ！お前如きが手を握って良い相手では無いんだ
ぞ！舞はお前なんかと違って…」
「やめて！…拓郎君、今日は…帰ります。付き合ってくれて…有り難う。」
健二とか云う気障男の言葉を遮るように、舞ちゃんが手を離し奴に近づいて行っ
た。…しかし、舞ちゃんの表情は寂しそうだった。（少なくとも俺にはそう見えた）
「あ、…そう。舞ちゃん。学校始まったら、よろしくね。」
突然の出来事だったので、しっかり顔を作れただろうか？もしかすると非常にお
間抜けな顔で云ったかも知れない。
「学校始まっても、話しかけてくれたら…嬉しいな…」
また、俺にしか聞こえないような小さな声が聞こえてきた。
…舞ちゃんも帰ってしまった…しょうがないから、一人で屋上・講堂等を探索し
早々に学校を出て行こう。
整備の行き届いた屋上や綺麗な講堂は一人でいるにはちと寂しい気もした。
校門を出た辺りで、いきなり声をかけられた。
「あれぇ？拓郎じゃない？」
自慢じゃないが、高校受験の時も下見なんぞしてる暇も無かったくらいだ。当然
此の町に知り合いなんぞ居ない筈だ。
しかし、俺を指してるらしいのは判るので、振り向いてみた。整った顔立ちをし
ている。此の町に越してきて正解だったようだな…あれ？どっかで会った事があっ
た様な…？
「私よ、私。黒川さとみ。忘れたの？薄情ね。」
…げっ！思い出した。さとみだ。俺の幼なじみだが、中学途中から家庭の事情と
かで転向して行った。…そう云えば、転校先は此の近くだと聞いた覚えはある。
「さとみ…久しぶりだな。どうしてこんな所に？」
「それは、こっちの台詞よ。何で拓郎が此処の校門から出てくるのよ？まさか、此
処を受けたの？」
「俺も、『家庭の事情』って奴でな、今日から此の町に引っ越してきた。尤も、俺
は一人でだがな。」
「ふ〜ん、まさか、私を追って来たんじゃ無いでしょうねぇ…」
「莫迦云うな！何で俺が…しかし、不味ったなぁ…もしかして、お前も此処の？」
「そう、新入生よ。また、３年間は退屈しないで済みそうね。」
…そう、此処では俺の過去を知ってる人間はいないと踏んでいた。しかし、俺の
罪状を一番知ってる奴に出会って仕舞ったのだ…
「さとみ、学校が始まっても、俺の過去は誰にも話すなよ。」
「…無理、だと思うわ。だって、転校生って、『前の学校の話』ってので新しい友
達作るじゃない？私の場合、真っ先に貴方の話が出たもの…」
「なんてこった…最初から躓いてるじゃないか…」
「大丈夫よ。私は『実際在った事』しか話してないから。」
くっそぉ…それが不味いんぢゃないか…俺が悔しがってるうちに、さとみが追い
打ちをかけてきた。
「拓郎…貴方、また高校でも何かやる積もりだったでしょう？」
これは、後で予定を塗り代えるしかないな、と考えながら話しを反らす事にした。
「こんな所で立ち話も何だ。どっか休めるところでも行こうぜ。」
「ふふぅん…当然、誘った貴方のおごりなんでしょうね？一寸歩くけど、良い喫茶
店知ってるわ。行きましょう。」
くっ…昔から、こういう奴だった。しっかりしてやがる。
１５分くらい歩いたろうか、たわいも無い昔話をしながら喫茶店に向かった。
「何？なんて店だ？『おてぃむてぃむ』？とんでもねぇネーミングセンスだな…」
取り敢えず、中に入ってみる。ふむ、名前のワリに落ちつける感じのする店だ。
「あら、さとみちゃん。いらっしゃい。お客さん連れてきてくれたの？嬉しいわ」
「な…なにぃ？」
カウンターに居た大男（強いて云うなら「シ○ィー○ンターの海○主」の様な）
が、いきなりおネェ言葉で歓迎してくれた。
俺の狼狽ぶりが面白かったのだろうか、さとみがクスクス笑いながら説明してく
れた。
「あ、此処のマスター。私の親戚なの。マスター、こいつが拓郎。時々話が出る、
私の幼なじみよ」
「あら、貴方が拓郎君なのね。噂はさとみちゃんから聞いてるわよ。貴方とは初対
面の気がしないわ。今日は、初めてのご挨拶代わりにおごっちゃうわよ。何でも頼
んで」
一寸、恐かったが慣れて仕舞った者勝ちだ。有り難くアイスコーヒーでもおごっ
て貰おう。
取り敢えず、窓際の席を陣取り、話題を反らす事にした。
「ところで、さとみ？お前此処にもう２年近く住んでるよな？」
「え？…ええ、そうだけど？」
「じゃあ、『桜木 舞』って娘、知らない？」
「さくらぎ…まい？何で貴方が知ってるのよ？」
話しを反らす積もりでとっさに云った事だが、思わぬ所で情報収拾が出来そうだ。
「そうか…知ってるのか。どんな娘なんだ？」
「貴方がからかって良い娘じゃ無いのは確かね。彼女は本当のお嬢様よ」
「あ？お嬢様？」
「そ、お嬢様。此の先負町に代々続く旧家の長女よ。確か、あそこは男兄弟が居な
いから、跡取りとして育てられてる筈よ。間違ってもあの娘に手を出しちゃ駄目だ
からね！」
「何でそこまで知ってるんだ？まさか…」
「転校して以来の同級生よ。尤も、そうでなくても此の町にいれば聞こえて来る名
家だけどね。」
…さっき会ったときには、いきなり話しかけてきた男が『さとみの昔話に出てき
てる拓郎』とは思わなかった様だ…取り敢えずほっとした。
「舞もね…可哀相だとは思うけど…しょうがないしね。」
「何がさ？あれだけ可愛い娘なんだから、友達も多いだろうし、別に可哀相には見
えなかったぞ？」
「云ったでしょ？名家の跡取り娘だって。遊び気分の男達は家名を恐れて話しかけ
ても来ないわよ。必然的に女の子同志でしか話せなくなってるし。」
…そうか、フとした拍子に彼女が見せた表情の裏は…
ならば、やはり俺の出番ではないか！しかも、此処に古くから居る恋敵になり得
る連中は自分からその権利を放棄している！これは美味しい状況だ！
｢…拓郎？さっきから何ニヤけてるのよ？…まさか、舞に良からぬ事を考えてるん
じゃ…」
「何が良からぬ事だ。良い事に決まってるじゃないか。」
「何よ！やっぱりそうなんじゃ…」
詰めよりかけてるさとみをかわしながら、聞きたい事を続けて聞いてみた。
「そう云えば、舞ちゃんも知り合いらしいが、『健二』とか云う奴を知ってるか？
気障で偉そうな態度の奴だったが…」
「まったくもぅ…人の話し聞かない所は昔のままなんだから…何？健二君？舞の幼
なじみだそうよ。健二君の家も建設会社か何かで大きなビルが在るわ」
「フルネームは？」
「確か『相原 健二』だったかしら」
そうか…多少、勇気のある奴が舞ちゃんに声をかけても、あの健二とかいうボン
ボンが邪魔してるわけだな…と、想像してみた。多分、十中八、九正解だろう。
舞ちゃんとお友達になるには、ボンボンを突き崩すしかないようだな。まぁ、良
い。あんなボンボンならば、楽勝だ。
「そうか、色々ありがとよ」
「情報料は高いわよ。此処の払いは、結局マスターのおごりになったんだから、今
度改めて請求するからね」
「ちぇ…しょうがねぇな…」
取り敢えず得したので、逆らわないようにしておこう。
適当にさとみのと話して部屋に帰り、荷物の整理をしたら、入学式当日になって
いた。
１９９Ｘ・０４・１０（月）
０９：３０
入学式の朝が来た。
さて、俺の高校生活の思い出には、必ず押さえておきたいイベントである。
此処で、俺のキャラクターを印象づけておけばこれからの行動はやり易くなる筈
だ。（昨日、学校への下見も半分その計画の具体案をまとめる為と云っても良いだ
ろう。）
他の新入生よりも多少早く登校、校庭でクラス分けを確認した後、新入生集合場
所には向かわず、講堂の音響室に向かった。
機械に多少細工が出来る程度の腕は持っているので、スピーカとアンプの間に持
参したウォークマンを中継させる様にしておく。
音響室から、舞台までは全速力で約１分。式の開催まで身を隠しておき、開催と
同時にもう一度、音響室を占拠出来れば計画の八割は成功だ。
式が開始されるまでに放送部の連中が何度か入ったようだが、開始と同時に全員
式に参加しだした。（あとは、マイクスイッチ等、舞台で操作するだけのセットに
して在る様だ。）
式は普通に進み、生徒会長挨拶に差し掛かろうとしていた。
司会の、多分先生だろう…が、式次第に則り、「生徒会長祝辞」と読み上げた。
時は熟した！ウォークマンのスイッチを入れ、舞台に向かって走り出した。
「ちゃかちゃんちゃんちゃかちゃかちゃんちゃん…」
生徒会長らしき人間が席を立ち、マイクに向かおうとした時、出囃子が流れだし
たのだ。
会場の全員がアッケに取られてる！チャンス！
舞台袖に着いた俺は呼吸を整え、次のタイミングを待つ。
１分位、出囃子が鳴っていたが、一転、往年のプロレスラー「ミ○・マスカ○ス」
のテーマ「ＳｋｙＨｉｇｈ」が鳴り出した。
飛び出し時だ！
「ぅおっしゃぁ！」
上座袖から舞台に踊り出る。マイクには、俺のシャウトが飛び込んでいた。
「俺が新入生の拓郎だ！これから３年間よろしくな！特に女生徒の皆！ヨロシク！」
まず、正気に戻ったのは司会の先生だ。
「そいつを捕まえろ！」
その言葉を待っていた。司会の第一声が元で全出席者がパニックを起こしたのだ。
俺は目立つように、制服のジャケットを脱ぎ、高々と掲げて講堂内を逃げ回った
挙げ句、頃合いを見て講堂を離脱する。
当然、その際に舞ちゃんを見つけた事は云うまでもない。
「舞ちゃん、昨日は楽しかったよ。同じクラスの様だね。後で屋上で会えるかな？」
当然、舞ちゃんもパニックの中に居たが、俺の呼び掛けで落ち着きを取り戻した
様だ。
「え？…ええ、判ったわ。入学式の日からＨＲが長くなりそうよ。貴方のせいで。」
「あはは…じゃ、午後１時に屋上で」
それだけ会話が出来れば上等だ。周りを撹乱して離脱を開始した。
追手を振り切った後、俺は屋上で一息付きながら作戦の成功を一人祝っていた。
講堂から人が出ていくのが見える。式は終わった様だ。俺も教室に向かおう。
教室には、まだ誰も着いていない様だったが、まぁ良い。窓際一番後ろの席で居
眠りでもしていよう。
机に突っ伏し、居眠りの体勢を整えたところで、新入生がやって来た。
先ず、俺の所に来たのはさとみだった。
｢拓郎、やってくれたわね。しかも、ドサクサに紛れて舞にまでちょっかい出して」
「え？…見てたのか？」
「見てたのか？じゃないわよ。舞の隣に居たのが見えなかったの？舞にはしっかり
説明しておいたからね、貴方の事。」
げっ…マジかよ。舞ちゃん、来てくれるかな…
「それと、クラスで貴方の処罰が賭けになってるわよ。停学四日に５００円賭けた
からね、頑張って」
…にこやかに去って行きやがった。それって、捕まった時にそれだけの罰則を食
うように立ち回れってことかよ？まさか、昨日の「情報料」じゃないだろうな…
さとみが去ってすぐに、今度は知らない男が近づいて来た。
「よぉ！初っ端から楽しませてくれるな。俺、坂上一哉。よろしくな。此処って優
等生の学校だと思ってて、あまり期待して無かったんだが、どうしてどうして、楽
しませて貰えそうだ。」
「自己紹介ならさっきしたな、皆にだけど。よろしく。」
等と話してる最中に、先生が入ってきた。お？なかなかの美人だ。
「私が此のクラスの担任になりました芹沢よしこです。皆さんよろしく。座席です
が、今の所は皆さんが座ってるとおりで結構です。後日、決め直します。早速です
が、廊下側最前列の人から自己紹介して下さい。」
…う〜ん、テキパキとものをこなして行く。余り、冗談が通じないタイプの様だ。
よしこ先生の指示通り、自己紹介が進んで行き（女子の部分だけ聞き逃さないの
は、当然）、最後に俺の自己紹介になった。
「さて、しんがりを勤めますは、拓郎に御座います。…と、自己紹介なら入学式で
しっかりしてあるし…まぁ、よろしく！」
座ろうとした時によしこ先生から声がかかった。
「貴方が拓郎君ね…ＨＲ終わったら、職員室に来るように、良いですね」
「いやぁ、入学初日からデートのお誘いですかぁ？嬉しいなぁ…場所に色気が無い
けど。」
「良いですね！」
あらら…動じないよ。てっきり怒ってくると思ったのに…もしかすると、苦手な
タイプかも知れないなぁ
此の後、簡単な連絡事項の通達があり、ＨＲは終わった。
さて、職員室に行こう。…と、その前に舞ちゃんにフォロー入れておこう。
出口に向かう最中に、自然に舞ちゃんの席を通って話しかける。
「舞ちゃん、後でね」
彼女は俺に向かってにっこりと微笑んでくれた。屋上には来てくれる様だ。
職員室で俺を待っていたのは、予想外な歓迎だった。一部を除いては。
「よぉ！有名人！処罰は覚悟しておけよ！」
「笑わせて貰ったぜ！お前みたいのは久しぶりだ！」
よしこ先生は、俺を自分の席に呼んだ。
「貴方、自分のした事、判ってる？」
「判ってる、積もりですが」
「どう、判ってるのか、聞かせて貰えるかしら？」
「はい、今日の入学式を出席者の誰にも忘れられない思い出にしたと思ってます」
それを聞いていた他の先生は笑いながら、好意的なヤジを飛ばしてきた。
…よしこ先生は、半分予想していた様に話を続けた。
「判りました。貴方の処罰は、これからの職員会議で決めますが、覚悟しておくよ
うに。今日は帰って結構です。…あ、親御さんには連絡を取ります。」
「どうぞ、でも、此処への呼び出しには応じられないと思いますよ。」
「判ってます。一人暮らしなんですってね。それを考慮したうえで、会議を行いま
すから。」
思いの他、早く解放された。まだ、時間はあるが、屋上で昼寝でもしながら舞ち
ゃんを待とうか。
屋上には、金網から外を眺めてる舞ちゃんが居た。
「あれ？約束には随分早いけど、どうしたの？」
「貴方なら、手が空き次第来てくれると思って、先に待ってたの。」
「俺の事、さとみから聞いたんだって？呆れなかった？」
「うぅん…貴方こそ、私の事をさとみちゃんから聞いたんでしょう？それでも、普
通に接してくれるの？」
…俺が答えようとした時、またもや後ろから気障ったらしい声が聞こえてきた。
ボンボンだ。
「舞、そんな奴と話なんかしてるんじゃない！帰るぞ」
「健二君…」
俺は、舞ちゃんをかばう様に健二を振り向いた。
「お前が相原健二か…舞ちゃんはお前の『もの』じゃない！帰るならお前だけ帰れ！
舞ちゃんは、俺と話してるんだ」
「ふん…お前とは身分からして全然違うという事をまだ知らんのか？舞は…」
「知ってるよ、舞ちゃんの『家』は名家らしいな。だが、それが彼女と何か関係在
るのか？そんなものには縛られない友達や恋人が居たって良い筈だ！」
「ふん…本当の莫迦か…しょうがない。先輩、頼みます」
健二はそう云うと、後ろから来た妙にガタイの良い奴の影に隠れた。
「別にお前に恨みは無いが、頼まれ仕事でな。ちっと寝て貰うぞ」
「別に俺もあんたに恨みは無い。けど、向かって来るなら相手はするぜ…舞ちゃん、
下がって。」
決着は簡単に着いた。だいたい、サシの殴り合いで俺が負ける訳がない。殴りか
かってきた拳をかわす。そのまま体が流れてる所をカウンターで一蹴。それで終わ
りである。
別段、恨みのある相手ではないので、そのまま寝かせてやり、唖然としてるボン
ボンに向かって一言決めてみた。
「『先輩』とやらは、眠いみたいだ。お前はどうする？添い寝でもするか？」
ボンボンは青い顔を勤めて平静に見せようとして（だから返って目立つんだよなぁ）
言い返してきた。
「ふん、人の上に立つ者は自分の体は使わないものだ。貴様などには理解らんだろ
うがな！」
…云ってる事と態度が全然違うぜ。俺がにじり寄ってやったら、言葉もなく逃げ
て行きやがった。
さて、邪魔も入ったが、舞ちゃんとの話を続けよう。振り向くと、彼女は極上の
笑みで答えてくれた。
「あれ？どうしたの？何か嬉しそうだね。質問にまだ、答えてなかったね。」
「うん、嬉しいの。貴方が初めてだもの。私の家を気にしないで接してくれた人っ
て…私の質問には答えて貰ったわ。有り難う。」
「じゃぁ、これから俺と付き合わない？楽しい時間を約束するよ？」
「えっと…ご免なさい。まだ、貴方の事はさとみちゃんの昔話と昨日からの事しか
知らないから…でも、お友達にはなって欲しいな。」
「お友達…か、まぁ最初はそこから始めましょう。全てはこれから。まず、３年間
よろしく！」
多少未練は在るが、それは表には出さずに握手を求めた。
「ええ、こちらこそ、よろしくね」
返ってきた握手とともに送られた笑顔は、これまでの笑顔以上に晴れやかで、正
に天女の笑顔であった。
Ｆｉｎ
Ｐ．Ｓ．
…翌日、俺はさとみの笑顔も見る事が出来た。
「通告：下記の者、入学式における騒動の原因として、４日間の停学と
する。
記
１−Ｂ：拓郎 」
今度こそ、本当のＦｉｎ or ｔｏ ｂｅ ｃｏｎｔｉｎｕｅｄ
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