斗うべき時
第１話 出会い 〜興味〜
キキーッ
品の良い黒いリムジンが藤田浩之（高校１年：１６歳）の３mm手前（目測）で急
停車した
浩之の記憶には強く残っている車だ
それどころか浩之は一度だけだがこの車に乗った事も在る
浩之の１年先輩であり、オカルト研究会に生者として在籍する唯一の正部員、来
栖川芹香を送り迎えする車だ
今日も浩之はオカ研に顔を出し、芹香を誘って下校しようとしていた所である
芹香の執事をしているセバスチャン（日本人、名前は芹香からの愛のニックネー
ム(自称)）は浩之との仲を快く思っておらず、二人の下校風景を見る度にこの様な
暴挙に出る
しかし、それでも一度たりとも実際にぶつけた事が無いのは、セバスチャンの運
転技術によるモノなのだろう
（尤も、セバスチャンからすれば本当にぶつけたいのだろうが、その後に芹香がど
うするかと云うのが半ば判っているから出来ないで居る、と云うのが正解だろう）
「じじぃ！危ねぇじゃねぇか！」
対する浩之も既に慣れたモノである
芹香と同席している手前、絶対にぶつけられる事は無いと思っていながらも、や
はり恐怖感は在る
事故る確率は極少と判っていても感じるジェットコースターに対するスリルと一
緒である
しかし、ジェットコースターと違うのは「自分で進んで感じているモノでは無い」
事である
それに対して普段なら下車したセバスチャンが浩之を無視して芹香を乗車させる
事で答えるのだが、今日は勝手が違った
「ハァイ、姉さん。迎えに来たわよ」
芹香と全く同じと云って良い様な容姿の持ち主が後ろのドアから下車してきたの
だ
「先輩！？…が二人？」
浩之が混乱するのも無理は無い
芹香と同じく整った顔立ち、真っ直ぐと伸びた黒髪、それと対照的な白い肌
どれを取っても芹香と同じ作りで出来ていた
違うのは着ている制服が浩之の高校のモノでは無く、隣町のお嬢様学校、西園寺
女子高校のモノであると云う位か
「いや、良く似てるけど、別人か…」
浩之が混乱から立ち直るのも早い方では無い
容姿は全く同じと云って良いほど似通った二人だが、表情が違う
何時も接している芹香はどんな時でも無表情に近く、動きもおっとりとしており、
声も注意して聞かなければ聞き取れない位か細い
が、今来た少女は表情は猫の目の様にクルクル変わり、動きも活発、声だって透
き通るような奇麗な声だが、一般会話には差し障りの無い音量だ
「姉さん、この人が藤田浩之さん？」
車から来た少女は芹香に話し掛けている
「姉さん、だって？お前、先輩の妹か？」
「そうよ、私は来栖川綾香、始めまして。ふぅん、顔立ちは整ってるけど、ことさ
ら美形と云う訳でもなく…運動もそこそこ出来そうだけど専門家じゃないわね」
「だから何だって？」
幾ら先輩の妹で、美少女でも此処まで図星を突かれると流石にムッと来る
「あら、ごめんなさい。家で姉さんが貴方の話ばかりするんで、私も一度会って見
たくなってね」
悪びれた風も無く、綾香は謝った
そう来られると、何時までも怒っていられなくなるモノで
「まぁ…良いけどさ、何？先輩、家で何時もオレの事話してくれてるの？」
と矛先を芹香に向ける
芹香は…と云うと、ほのかに顔を赤くして照れながらも綾香を軽く睨んでいる
この表情の変化は最近判る様に成って来た浩之と長年姉妹をしていた綾香にしか
判るモノでは無かったが、この場にはその面子しか居なかった
「あは・あはは…」
綾香は笑って誤魔化そうとしているのは明白である
「まぁ、今日は顔を見に来ただけだから、また今度ね。姉さん、今日は私と一緒に
帰ろう？」
睨まれている事が余程気になるのか、綾香は話題を早々に切り上げ、芹香を車に
乗せて仕舞う
「先輩、またな」
浩之が声をかけると、芹香は少し嬉しそうな顔（やはり、判別できるのは此処に
居る面子だけだろうが）になり、車に乗った
来栖川財閥の美人姉妹が乗った車は無愛想に発進し、瞬く間に見えなくなって仕
舞った
「来栖川…綾香か、先輩とは全然似て無い性格の様だなぁ」
浩之は一人ごちると家に帰って行った
「え？藤田さんの前であんな事云うなんて…って、良いじゃない事実なんだから…
恥ずかしかった…って、ご・御免、姉さん」
一方、来栖川のリムジンの中では綾香の独り言の様な話し合いがされていた
一応、綾香も主張している様だが、やはり立場は姉の方が上の様だ
「しかし、あの藤田さんって、私たちが来栖川の直系って知ってるんでしょ？それ
で私達にあんな接し方の出来る人って…確かに居なかったわね。私も凄く興味が湧
いてきたわ」
「………」
芹香の方は、それに対しては本当に何も答えなかった
それは、これから起こるであろう波乱を予感しての事だったのか、そうでないの
かは芹香自身のみぞ知る事であった
To be continuede
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