斗うべき時
第２話 戯れ 〜友好〜
唐突な綾香との出会いから数日、浩之は既にその事を忘れかけていた
それは、芹香もその時の事や綾香の事を改めて口にしないからという所為も在る
のだが、それ以上に浩之は新学年に上がる為の準備に翻弄されていたのだ
「ふ〜っ、やっと試験も終わったぜ。先輩のコーチが無かったら、今回マジにヤバ
かったんだ…、ありがとな、先輩」
浩之はそう云うと隣を歩いていた芹香に微笑む
芹香は、嬉しそうに（やはり、この場では浩之にしか判らない様だが）浩之の頭
をなでなでする
校門に差し掛かると、既に待っていたのであろう黒いリムジンが目に入る
屈強な老人執事セバスチャンも車の外で待機している
「芹香お嬢様、ささ、お車にお乗り下さい」
セバスチャンは当然の様に浩之を無視して芹香を車に乗せようとする
本当なら、今までのお礼に帰りにお茶でもご馳走しようかとも考えていた浩之だ
ったが、以前セバスチャンと闘ってクタクタになり、引き分けた経験が在る（その
時、セバスチャンも相当疲れさせたのだが、自分でエスコートする体力が無くなっ
たので、車に乗る芹香を止められなかった。事実上の負けである）ので、次の再戦
まで鍛えねばならないと思い、今日の所は大人しく見送る事にした
「じゃぁな、先輩。また部室に行くから」
ドアが閉まる寸前、芹香に挨拶を交わし、車を見送る
ふぅ、と一息ため息を吐くと、自宅の方角へ靴を向ける
「あららぁ、振られちゃったの？」
茶化す様な言葉にカチンと来て振り向き、しばし驚く
そこには西園寺女子高校、通称「寺女」の制服を着た芹香が立っていたのだ
「先輩？…じゃ無い、妹の方だな？」
「そうよ、藤田さん。綾香、忘れないでよね」
右手を上げて挨拶する綾香
しかし、浩之は憮然として答える
「振られたって何だよ、別にお迎えの車が来たから見送っただけだろ」
「そぉ？私には姉さんを誘おうとしてたけど、諦めた様に見えたけど？」
図星である
故に浩之はそれ以上反抗出来ずにグッと詰まる
「ねぇ、じゃぁ姉さん誘う代わりに私と一緒に遊びに行かない？」
「はぁ？何で『先輩の代わり』なんだよ、お前は妹でも先輩じゃ無いだろ？」
浩之の何気ない一言だったが、今度は綾香が詰まる番だった
その様子を見て、何か違和感を感じる浩之だったが、言葉を続ける
「まぁ、オレも時間が空いたし、お前が誘うんだったら、付き合ってやるぜ。ただ
し、ワリカンだがな」
その言葉を聞いて、綾香の様子がまた変わる
先程までの調子に戻ったのである
「なによぉ、女の子エスコートするのに『金は任せろ』位云えないの？」
「お前から誘っておいて、都合の良い事云うな。オレにオゴらせたかったら、オレ
から誘わせてみろ」
文句を云いながらも綾香は嬉しそうだ
『やっぱり、良いわ。私を姉さんと区別して、ワリカンでデートさせる男の人なん
て、始めてだもの』
綾香は浩之の腕を取ると、そのまま商店街の方に足を向ける
「判らん奴…」
呟きながらも、綾香と腕を組んだ状態で商店街まで行く浩之だった
商店街では適当にウィンドゥショッピング、ゲーセンで対戦、ヤックで一息、と
いった『ごく普通の学校帰りの寄り道』程度の行程だったが、二人ともまんざらで
は無い
浩之は商店街をうろつく中、すれ違う男が綾香に憧れの、浩之に軽い嫉妬の眼差
しを飛ばす事に気付いていたし、綾香は実の所、こういった戯れは初めての経験だ
ったので、楽しむ事が先に立ち、周りに目が行って無かったのだ
「しかし、妹。お前も対戦結構強かったが、結構練習とかしたのか？」
「その『妹』っての止めてくれる？私の事は『綾香』で良いわ。」
「あ、悪りぃ。最初に先輩の妹だから、『来栖川』って呼ぶと先輩呼んでるみたい
に感じて、区別したかったしな。じゃぁオレの事も『ヒロ』で良いぜ」
綾香もそれは感じていたのだろう、浩之がすぐ訂正した事や、友達に遣わせてい
るニックネームを遣わせてもらえる事も併せてそれほど嫌な顔せずに話を続ける
「それで、私が何だって？」
「いや、対戦で結構強かったから、練習を積んだのか？ってな」
「そんな事、在る訳無いじゃない。ゲーセンだって行くのは久しぶりよ」
「何で？」
「何でって…私の学校でゲーセンに通う友達が出来ると思う？」
「あ、そうだったな。綾香が自然体でゲーセンに入るから、少し誤解してたかも知
れないな」
「そんなに自然だった？」
「おぅ、しかも対戦しても結構強いし…反射神経とかが良いのかもな」
綾香は『自然に振る舞えてるように見えるなら、ヒロの所為よ…』と、心で思い
ながらも会話を続ける
「反射神経は良いわよ？日頃から鍛練してるし」
「本当、先輩とは全然似てないよなぁ」
「まぁね、姉さんは箱入りで育ったから、でも、イザと云うと結構恐いわよ」
「確かに、先輩は或る意味恐いと云うのも在るけどな」
「あれ？ヒロも姉さんの怖さを知ってるの？」
「まぁな、先輩の趣味に掛ける情熱は横から見てて一寸…な。まぁ、先輩のする事
だし、信じてはいるけど、時々な」
『単に優しいお姉さんとして見てるだけじゃないんだ…』
後は、特に何と云う事も無い話をして別れた浩之と綾香
綾香は浩之の考えを知れば知るだけ興味を持つのを感じていた
果たして感じていたのは興味だけなのか…それは当の綾香にも判らない様だった
To be continuede
第１話 出会い 〜興味〜に戻る
第３話 新たな出会い 〜後輩〜に進む
Ｌｅａｆ系二次創作に戻る トップに戻る