斗うべき時
第３話 新たな出会い 〜後輩〜
新学期になった
芹香は当然進学に問題無く最上級生となり、浩之もなんとか進学できた様で２年
生となっていた
綾香は先日の『デート』以来、週に１〜２回程度の頻度で浩之の高校に顔を出し
ていた
他愛無い会話として浩之が聞いた話では、彼女の通う西園寺女子高校（通称『寺
女』）は噂に聞く通りのお嬢様学校だと云う事だ
そんな中、校風に似合わない活発な者はアイドル化されるか、無視されるかどち
らかになるとの事で、幸いにして綾香の場合は前者となっている様だ
それならば、学校生活もさぞ楽しいだろうと思えるもので、何の用でこっちまで
来ているのか聞いた事も在るのだが、綾香は笑うだけで答え様とはしなかった
新入生の入学式も無事に終わり、学校生活も落ち着きを取り戻してきた或る日、
何時もの様に幼なじみの佐藤雅史（同級）を伴い、売店に昼食用のパンを買おうと
していた浩之は別の人だかりを見て、その動きを止めた
小柄な女の子…見覚えが無いので多分新入生だろう…が、同好会の勧誘らしき事
をしている
周りに居るのは殆どが野次馬の様で、興味本位でしか無さそうだ
「あれ？浩之、どうしたの？…あぁ、格闘技同好会の娘だね？」
「ん？雅史知ってるのか？」
「あぁ、ここ最近あそこで勧誘をしてるよ？尤も、成功はしてないみたいだけどね
。運動部関係だから、一応知ってはいるけど…浩之、格闘技好きだったよね」
「まぁ嫌いじゃないけど、どうして？」
「昔、よく僕に技とか掛けてきたじゃないか」
それは単に浩之は雅史をいぢめる為の口実として云っていただけなのだが、今更
そんな事は云えない浩之だった
しかし、確かに浩之も格闘技は嫌いじゃない
浩之は雅史に自分の分のパンを頼むと野次馬の中に溶け込んで行った
「…格闘技と云うのは世界中に在ります。日本には柔道・空手・合気道・相撲など
も格闘技に入りますし、中国では拳法、ブラジルではグレイシー柔術等、流儀を細
分化すれば、それこそ星の数ほどです。ですが、ついにその格闘技の壁を打ち砕く
革命が起きました！それがエクスト…あれ？」
段々と自分の世界に入っていった元・勧誘を最後まで聞いていたのは浩之一人だ
った
「あの〜、すいません。他の聞いて下さってた人たちは…」
「あぁ、全員帰ってったよ。オレが最後の一人」
「あぁぁ、今日もまた最後まで聞いてくれなかった…」
「最後まで聞くかどうかはオレが決める。続きはどうした？」
「は？続きですか？えっと…私、何処まで話しましたっけ？」
「エクスト…なんとかって云う所だったと思うけど？」
「エクスト…あぁ、エクストリームです」
「それが新しい格闘技なのか？」
「いえ、エクストリームって云うのはルールの名前です」
「ルール？」
「はい、エクストリームルールを使った異種格闘技戦の事も指しますが。私、その
エクストリームの同好会を作りたいんです！」
「それで？」
「えっと…でも、同好会を作るには最低５人の会員が必要なんですが、まだ全然足
りなくて…見学だけでも良いですから、来て下さいませんか？」
「オレが？」
「はい！最後まで聞いて下さったのが、貴方だけなんです！月水を除く毎日、神社
の境内をお借りして練習してますので、お願いします」
一所懸命な勧誘に押し切られる形で、浩之はその日の放課後から時折神社に通う
ことになった
その分オカ研に通う日数は減ったのだが、芹香は特に何も云わなかった
（尤も、芹香は感情が表に出難い性格なので、浩之が気付かなかっただけかも知れ
ないのだが）
そんな放課後が続いた１〜２週間後
「へ〜、葵ちゃんは空手からエクストリームに入ったんだ」
浩之を熱心に勧誘した小柄な女の子は松原葵と云い、やはりこの春入学したばか
りの新入生だ
小学生の頃から空手は続けているのだが、昨年からエクストリームへ転向する為
の準備をしており、高校入学と同時に同好会を設立しようと思っていたが、現在入
会してくれる者は皆無…と云う状態らしい
「はい、空手の道場には今でも通ってますが、最近は別の拳法の道場にも通ってま
す」
「どうしてエクストリームに入ったの？空手に飽きた訳じゃ無いんでしょ？」
「はい、空手だけでも私より強い人は大勢居ますけど…綾香さんがエクストリーム
に移ったから、私も少しでも追い付きたくて…」
「綾香さん？」
「はい、私が空手を始めた切っ掛けになった人で、空手だけでも強いんですが、去
年のエクストリーム全国チャンピオンです」
（綾香って名前に心当たり在るが、アイツじゃ無ぇだろう…何せ来栖川お嬢様だし
なぁ…）
浩之はそんな事を考えながら、葵の練習を見学、時には手伝ったりしていた
「はぁい、ヒロ。お久しぶり」
「おぅ、綾香。…お久しぶりって程でも無ぇだろ？」
綾香が校門で待っていた
彼女の学校、寺女は隣町に在る筈なのに、寄り道をしない浩之の下校前に校門で
待てると云うのは何とも不思議だったが、特に浩之がそれを気にした事はない
綾香と浩之が会ったのは２週間ぶりだろうか、確かに今までの頻度を考えると久
しぶりなのかも知れない
「そぉ？何か随分会って無かった気もするけど？この間来た時も居なかったし、姉
さんもオカ研に来る事が少なくなったって云うし」
「あぁ、チト別の同好会にも顔を出す様になってな」
「同好会？」
「あぁ、ウチの新入生が設立したんだ。格闘技同好会。最初は熱心な勧誘に押し負
けた感じだったけど、やってみると中々面白いぜ？」
「格闘技…同好会？新入生が設立したの？」
「あぁ、小柄で一見中学生でも通用するようなコだけどな、実際結構強いし、ガッ
ツはそこらの男子高校生の比じゃないぜ？」
「小柄で中学生にも見えるガッツの在るコ…で、ヒロもそこで練習してるんだ？」
「まぁな、秋に大会が在るらしくて、それに参加だけでも出来る様にな」
「秋の…大会」
「どうした？綾香。先輩にはそんな訳だからオカ研への出席率は多少落ちるって云
って置いたんだけどなぁ…」
「う、うぅん？何でも無いの」
とは口に出して取り繕う綾香だが、心の中では「その同好会のコって…よねぇ。
じゃぁあのコから聞いた『気になる先輩』って云うのは」とか考えていたのだが
「で、今日はどうする？オレは同好会に顔を出す予定なんだが、一緒に行くか？」
「き…今日は良いや、姉さん待って一緒に帰るわ。じゃぁまたね」
綾香は浩之と別れると校舎の中に入っていった
浩之は「おぃおぃ、放課後とは云え、他校生だろ？」とか突っ込みを入れそうに
なったが、まぁ綾香なら問題無いだろう、と思い直し神社に向かっていった
「姉さん、知ってる？最近のヒロが何処に行ってるか」
此処は校舎内、オカ研会室
綾香は浩之の姿が見えなくなると同時に一気に駆け出し、此処までノンストップ
だった
良く考えると、結構凄い瞬発力及び持久力、そして集中力だ
「………」
「知ってるって？格闘技の同好会に仮で入ってるって聞いたって？その同好会は設
立者の１年女子と二人っきりだって云うのは知ってるの？」
「………」
「知ってるけど、ヒロとはまだそんなじゃ無いから何も云えないって…姉さん、本
気で云ってるの？」
綾香は何となく語尾が荒くなっている
「…まぁ、聞いた話じゃ、その１年女子って私の後輩だから、今度そっちにも顔を
出す様にするけどね…姉さんも、もっと自分に正直になった方が良いわよ？」
綾香は話を打ち切ると、姉の部室から出て中庭で時間を潰す事にした
一方、芹香の方は雑念が払えずに何の成果も見出せぬまま今日の部活を終えるの
だった
To be continuede
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