斗うべき時
第５話 日程 〜焦り〜
坂下の宣戦布告から一週間が過ぎていた
未だ坂下から試合の日程は連絡されてない
それが却ってプレッシャーになっているのか、葵は益々練習に打ち込む様になっ
ていった
「葵ちゃん、少し休んだ方が良いって。今から根詰めると当日に却って体調崩すだ
けだよ」
「はい、判ってはいるんです。でも、何かしてないと落ち着かなくて…」
と、ここ２〜３日は二人とも落ち着きを欠いている
「ヒロ〜！好恵はまだ何も云って無いのぉ！？」
落ち着きを欠いた者はもう一人居た
「あぁ、まだ何も云ってきて無い。大人しく待ってろ」
「なによぉ、その云い方は！？葵の事を心配して聞いてるって云うのに！」
普段なら気にもならない遣り取りだが、今の綾香にはカチンと来て仕舞った様だ
「心配？おめ〜の場合は、それも在るだろうが、自分のプライドも賭かってるんで
なおの事気になるんじゃね〜のか？」
語気の荒い反応に自ずと浩之もヒートアップする
「何よ？それの何処が悪いのよ？好恵の奴、好き放題云っておいて肝心の試合を何
も段取り付けて来ないんじゃない！あぁっ！もぉイライラするわねぇ！」
「ひ…浩之ちゃん？」
恐るゝかかった声に、浩之は綾香との遣り取りでヒートアップしたまま反応する
「何だよ！？」
「あっ…浩之ちゃん、周りから見られてる…」
「何？」
下校途中にすれ違ったあかり（同級・幼なじみ）が少し怖がりながら周りを気に
して注意して去って行く
あかりもこの騒ぎに注意をするのが少し恥ずかしかったのか、赤くなっていた
それにつられて浩之・綾香も周りを見ると、周囲には珍しい『ガラの悪そうな男
子高校生とお嬢様学校の女子高生が起こしている口喧嘩』と云うのを好奇の目で見
ていた観衆はワザとらしく目を逸らす
あかりに云われる迄も無く、現状を確認すると結構恥ずかしい
高校の校門前で、その学校の生徒が騒いでるだけなら大した事は無いのだが、そ
の相手が他校生となれば充分目立つ
しかも、その相手が名高きお嬢様学校ならば尚の事だ
「と…兎に角だ、綾香。今日の所は、まだ何も云って来て無いんだから、大人しく
帰ってくれ、オレ達以上に葵ちゃんが熱くなってて心配なんだ」
「葵が？どういう事よ！？」
「葵ちゃんが練習熱心なのは何時もの事だが、今回は空回りしてる感じがする…見
てて何時怪我でもしないかと心配なんだ」
「ふぅん…心配ね」
「オレが見ててやるから、心配すんな」
「藤田に綾香、何こんな所で騒いでるのよ？」
その声こそ、この１週間待ち望んでいた声だった
「坂下！」
「好恵！」
声に反応した二人は、ほぼ同じ速度で振り返り声の主を確認した
「何よ、そんなに勢い込んで…」
「何よじゃないわよ、葵との試合はどうなってるのよ！？」
「あぁ、その事ならこれから葵の所に行く積もりだから、そこで話す」
「お前がチンタラしてる所為でこっちは何時になるかとイライラしっぱなしだった
んだぞ！」
「それは藤田の精神修養が足りない所為だ。私に云われても困るな」
「…だとよ、オレと同じくイライラしていた綾香さん」
「何よ！？…好恵、あんたのやってる事は単なるジラシよ、精神修養でも何でもな
いわ！」
「あぁ、確かにそうなるかもな…しかし、私にも事情が在ったし意味も無くじらし
てたわけじゃ無い。それに私の都合で段取りをしても良いと云ったのは葵よ。第一、
武道家たる者、それくらいの事でイライラしていたら勝てる試合も勝てなくなるわ」
坂下の云う事も理に適ってはいるので、これ以上は何も云えない
「判った。どういう都合が在ったのかは知らないが、今日その段取りが整うんだな？」
「えぇ、じゃぁ行きましょうか」
それだけを云うと坂下はさっさと神社に向かってしまう
仕方が無いので、浩之と綾香もそれに付いて行く事にした
「好恵さ…坂下先輩、お待ちしてました」
「葵、待たせたわね。ちょっと部の方での時間調整に手間取ってね…」
「いえ…で、試合の日時は決まったんでしょうか？」
「えぇ、それを伝えに来たのよ。次の日曜、朝１０時からで良い？」
「はい、結構です。場所は？」
「ウチの部の道場を使えるようにしたわ。ルールはエクストリームルールで結構よ。
そうでなければ貴方の堕落を判らせられないでしょうからね」
「判りました。でも、私は今回立ち技打撃系だけで戦う積もりですので、空手と殆
ど変わらないルールで行けると思います」
「ふぅん…強く出たわね。私も葵を傷付ける積もりじゃないから、手足のグローブ
とヘッドギアは着用、これで良いわね？」
「えぇ、結構です。では日曜日にお邪魔します」
「待ってるわ…試合以降に目が覚めて空手に戻ってくる事をね」
坂下は告げる事だけ告げると、学校に戻って行った
恐らく、まだ部活が残っているのだろう
それを見送る３人は…
「日曜日…もっと頑張らなきゃ」
「日曜日ね…余裕決めちゃって、覚悟しなさいよぉ」
「あと１週間切ってるのか…チト調整には時間足りるかなぁ？」
と、全然別の方向で考え事をしていた
「さて、試合の日も判った事出し…」
「あぁ、判ったんだから、今日の所は大人しく帰るよな、綾香？」
綾香の言葉を途中で奪って浩之が切り出す
「なによぉ…そんなに邪険にする事無いじゃない！」
「お前…この間云った事、忘れてないよな？」
「忘れてなんかいないけど…試合も近づいた事出し、スパーリングパートナー位居
たって良いんじゃない？それとも、ヒロがそれ、出来る？」
「うっ…出来る訳無いだろ？」
「決まりね、これからはコーチでは無くパートナーとして来させて貰うわよ？」
「っ！勝手にしろ、ただし、練習法には口を出すなよ？それと、やっぱり今日は帰
れ」
「なんでよ？」
「今日の練習の結果でスパーリングの日取り決めるから、今日のメニューにはそん
なモン入っちゃいね〜からな」
「…判ったわよ、明日なら良いのね？」
「判った、それまでに決めとくよ」
「おっけ〜、じゃぁ明日ね」
明日も浩之に会える口実も貰った事だし、と綾香は心で付け足していた
「さて、葵ちゃん。１週間無いし、これからスパーリングも入れて練習するけど…
聞いてる？」
「えっ？はい、先輩何でしょう？」
「気合い入れてるのも判るけど、これから１週間はオレが練習メニュー決めるぞ」
「？」
「今まで我武者羅にやって来て、体は疲れている筈だから、適度に休んだメニュー
を組む。オレには勝負も大事だが、葵ちゃんが怪我しない事が一番大事なんだ」
「…判りました。お願いします！」
こうして、浩之は１週間限定の格研コーチに就任した
To be continuede
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